小豚と美貌鹿

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所持品検査について

今回は刑事訴訟法の基本論点である所持品検査について簡単にまとめていきます。基本論点ではありますけれども,混乱しがちな分野の一つなのでしっかりと確認していくことをオススメします。

大前提として,今回問題となる所持品検査は行政警察活動の範囲で行われるものであるため,任意に行われる必要がある,ということです。ですから,強制にわたるような態様の所持品検査は許されないのです。強制処分は強制処分法定主義(刑事訴訟法(以下,「刑訴」という)197条1項但書)によりそれが法定される場合にのみ実施し得る原則に服しています。そして,強制処分による捜査を強制捜査強制処分によらない捜査を任意捜査というように区別されています。従って,強制にわたってしまえば任意捜査の範囲を超え,行政警察活動としての枠を離れてしまい,許されないということになります。(強制と任意の違いについてはまたの機会にまとめます。)

 

所持品検査の検討

では,所持品検査の具体的な検討に入っていきます。

上記のように所持品検査は行政警察活動として行われるものです。行政警察活動とは個人の生命等の保護,犯罪の予防・鎮圧,公安の維持という行政目的を達成するための警察活動のことをいい,その活動にあたっては憲法31条(適正手続きの要請)の趣旨から①その活動には根拠条文が必要であること②任意捜査の原則の趣旨③警察活動の必要性・相当性という観点からの規制が生じます。

しかし,所持品検査を明示的に定めた条文は存在しません。このことから上記に反し,許されないのではないか,との論点が出てきます。

ですが,所持品検査とは犯罪の早期発見,つまりは行政警察活動の目的にある犯罪の予防・鎮圧の為に行われるものです。ですから,職務質問に付随して認められると考えられています。従って,警察官職務執行法2条1項が根拠条文であるということになります。

そして任意捜査は原則として相手方の承諾を得なければなりませんから,承諾の有無を検討していくことになります。承諾を不要とすれば捜索・差押え等の強制捜査に令状を要求した法の趣旨を潜脱する恐れがあるからです。この時の承諾は黙示の承諾でも足ります。

 

ただし,承諾がなければ一切所持品検査が許容されないと考えるべきではありません。先ほど述べた犯罪の予防・鎮圧という目的を達することができなくなれば,所持品検査を認めた意味が無くなってしまいます。そして上記承諾の目的は法の趣旨潜脱の恐れを回避することにあります。そうだとすれば,強制捜査に令状を要求した法の趣旨を潜脱しないのであれば許容してもいいであろうと考えることができます。

具体的には強制捜査に令状が要求されているのですから,強制捜査でない範囲なら許容できるだろうということになります。

 

そして,その行為が強制捜査なのかどうかを判断する判断基準について,判例が示してくれています。米子銀行強盗事件(最判昭53.6.20)ですね。判断の観点としては

①所持品検査の必要性

②緊急性

③侵害される個人の利益と保護される公共の利益との権衡

④具体的状況の下で相当だと認められる場合

であれば,任意捜査として許容されます。

 

少し難しいのはあてはめですね。米子銀行強盗事件では,ボーリングバッグのチャックを開被した行為を任意捜査の範囲として適法としましたが,その後のアタッシュケースのカギを壊した行為は強制処分にあたるべき行為だとしながらも,先行したボーリングバッグの開被によって現行犯逮捕の要件を充足したので,後行のアタッシュケースは逮捕に伴う捜索差押(刑訴220条)として許容されています。逆だったら違法だったんですね。違法な捜査によって収集された証拠であれば適正手続の見地(憲法31条)からそれに続く逮捕などの捜査も違法になります。時系列を読み間違えないようにしましょう。チャックの数,カギの有無等,プライバシーの保護度合を丁寧に評価しながら検討してください。

 

以下、所持品検査について簡単に参考論証を述べておきます。自分なりに使いやすいように書き加えながら使ってみてください。

 

所持品検査 参考論証

1.本件における所持品検査は適法か。

(1)行政警察活動は憲法31条の趣旨により,原則として根拠条文に基づいて行われなければならないところ,所持品検査について定めた明文の規定は存在しない。

しかし,口頭による質問と密接に関連し,職務質問の効果を上げる上で必要かつ有効であるから,職務質問に付随する行為として警察官職務執行法2条1項により許容される。

(2)そして,その範囲についてであるが,人が携行しているものの「捜索」「差押え」には憲法35条の令状主義が妥当するから,所持品検査は任意捜査の範囲で行われるべきである。

本件職務質問は~という不審事由が認められることにより,警職法2条1項に基づき適法に開始されたといえるが,所持品検査が任意捜査の範囲にあるといえるか。

この点,任意手段としての捜査を行うためには所持人の承諾を得る事が原則である。

しかし,職務質問および所持品検査は犯罪の予防・鎮圧等を目的とする行政警察上の作用であって,所持人の承諾のない限り一切の所持品検査が認められないとするのは妥当でない。

そこで,捜索に至らない程度の行為は強制にわたらない限り許容されると解する。具体的には

①所持品検査の必要性

②緊急性

③侵害される個人の利益と保護される公共の利益との権衡

④具体的状況の下で相当と認められる場合

に許容されると解する。

 

 

                                    以上