小豚と美貌鹿

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二重起訴について

今回は民事訴訟法のうち,訴訟の開始,つまり訴訟係属(特定の訴訟事件が両当事者の関与の下に特定の裁判所により審判されている状態)の効果のうち,二重起訴の禁止(民事訴訟法(以下,法令名省略)142条)についてまとめます。基本論点ですが慌てるとこんがらがるところでもあるので,しっかり自分のものにしておきましょう。

 

二重起訴とは

 

二重起訴の禁止とは,裁判所にすでに訴訟を継続を生じている事件については同一当事者間では同一事件について重ねて別訴での審理を求めることは許されない とするものです。

この規定の趣旨としては,

①被告の応訴の煩

②訴訟不経済

③判決相互の矛盾抵触のおそれの防止

ということが挙げられます。

これはわざわざ説明しなくても,見ればまあそうだよな,という感じだろうと思います。

 

問題はどのような時に二重起訴にあたるか。つまり要件ですね。

142条の要件は「事件」の同一性があること だと言われています。

つまり,

①当事者の同一性

②事件の対象の同一性

で判断されます。

 

ここで問題となるのが審判形式が異なっている時にも二重起訴の禁止に抵触するのか,ということです。確認訴訟が係属しているのに同一事件について給付訴訟を提起するような場合ですね。

このような場合には142条の文言は直接は当てはまりません。ではこのような訴訟の提起を許して良いでしょうか。

ここで先ほどの二重起訴の趣旨に立ち戻って考えてみますと,審判形式が違うからといってこの趣旨から外れる話である,とは考えにくいですよね。

ですから,審判形式が違っても事件の同一性があるならば,二重起訴の趣旨より142条を類推適用して訴訟を認めない,との結論を取ることになります。

 

ここで,二重起訴禁止の規定は「同一事件について別訴の提起を認めない」規定になりますから,反訴(146条1項)を提起することは認められています

ここで覚えておいて欲しいこととして,例えば債務不存在確認請求訴訟に対して給付訴訟の反訴を提起して認められた場合,反訴の訴えの利益が認められれば主訴の確認の利益はもはや失われ,主訴については訴え却下判決を下すことになります。

 

相殺の抗弁と二重起訴

 

さて,二重起訴で一番考えておかなければならない,相殺の抗弁との関係について記述しておきます。

相殺の抗弁との関係では,⑴別訴を提起し,その後に同一債権で相殺の抗弁を提出する場合と(抗弁後攻型)⑵相殺の抗弁を提出しているにもかかわらず別訴で同一債権につき訴訟提起した場合(抗弁先行型) に分けられます。

 

端的に言ってしまいますが,抗弁後攻型だろうと抗弁先行型だろうと,二重起訴禁止の趣旨に触れるため許されない,という立場に立ってしまうのが記述しやすいのかなあ,と思います。

二重起訴禁止規定の趣旨③を,現実の既判力抵触ではなくそのおそれのある事件についてあらかじめ重複審理を禁止したものである,と考えれば,どちらの形であれ既判力抵触のおそれはあると言えますから,142条の趣旨に触れると考えます。

 

 

二重起訴に抵触する場合の処理

142条に抵触する形で後訴が提起された場合には,その後訴は不適法却下となります(140条)。

 

裁判所が不適法な後訴を看過して審理がなされてしまった場合には上訴事由となります。ここで注意しなければならないのが,不適法な後訴が確定してしまったならば再審事由にはならず,既判力ある判決が存在することになる,ということです。したがってこの後訴と矛盾する判決はもはや成し得なくなります

 

これによって前訴と後訴が矛盾した内容で確定した場合には,後に下された方の判決が338条1項10号に基づき,再審の訴えにより取り消されることになります。

 

 

 

二重起訴の話は以上です。学部やロースクールでも頻出の論点ですから,しっかりと確認しておいてください。

二重起訴の判断のみならず,民事訴訟法を考える上では訴訟物に対する理解が必須です。一つ一つ丁寧に検討することを繰り返しトレーニングしていきましょう。

 

 

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