小豚と美貌鹿

生きる上で役立つなあ、と思ったこと、日々の生活の中で頭に入れたいことなどを纏めます。

逮捕って何?

「逮捕」。我々が生活する上でよく聞く法律概念トップ3には入るであろう単語だと思います。

 

最近池袋で人を轢いた上級国民が逮捕されない,ということで話題になっていますよね。逮捕されない?人を殺しているのになんで!罰されないとかあり得ない!のように思う方もいるかもしれません。

 

ですが,逮捕って実際どうやってされるの?逮捕されたら犯人なの?といったように,事実よくわかっていないんじゃないでしょうか。

なので今回は「逮捕」について簡単にまとめてみようと思います。

法律を学ぶ方にとっても逮捕は大論点なので,ここで逮捕の基礎概念を固めておいて損はないと思います。

逮捕とは?

憲法第33条

何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない

 刑事訴訟法第199条

  1. 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、30万円(刑法暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、2万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まった住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。
  2. 裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。
  3. 検察官又は司法警察員は、第1項の逮捕状を請求する場合において、同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があったときは、その旨を裁判所に通知しなければならない。

 

以上が逮捕の根拠条文です。逮捕とは憲法で保障されている自由権を侵害する行為ですから,事件の証拠が相当程度収集され,一定の要件が整った場合にのみすることが許されるのです。裁判官のによるチェックを経て令状を発布されなければこれを行うことができないんですね。

 

そして,その逮捕が許容されるには

 

①被疑者が罪を侵したことを疑うに足りる相当な理由があること

②逮捕の必要があること

 

が充たされる必要があります。

 

そして,明らかに逮捕の必要性がない場合として,刑事訴訟規則143条の3は「被疑者の年齢及び境遇ならびに犯罪の軽重及びその態様その他諸般の事情に照らし,被疑者が逃亡する虞がなく,かつ,罪障を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がない」場合を挙げています。

 

よって,罪証隠滅の虞逃亡の虞がない場合には逮捕はされないのです。そしてそれは家族の有無・定職の有無・住居の有無など,様々な要素を考慮してなされます。逮捕は,前述したように憲法上誰にも保障される重要な権利を侵害するものですから,しなくていいならしないに越したことはないからです。

 

今回の池袋の事件においては,「上級国民」などと揶揄されるように,住居も身分も前職も経歴も公開されるくらいはっきりしていましたね。さらには87歳という高齢ですし,逃亡する虞はない,との判断に至ったのでしょう。ちなみに犯罪白書によれば,捜査機関が被害者の身柄を拘束する,すなわち逮捕する「身柄率」と呼ばれるものは捜査対象事件のうち3割程度でしかありません。ですから逮捕されないのは別に珍しい訳でもないということですね。

 

 

勿論,逮捕されなかったからといって捜査対象から外れる訳ではありません。これからの捜査によって犯罪の嫌疑がはっきりすれば,検察官により起訴がなされることは充分ありえる,ということです。

ちなみに,今回の事件概要を読める訳ではないので詳しいことはわかりませんが,今回のことを殺人罪だと言いたい気持ちは分からなくもないですけれど,被疑事実は危険運転致死傷罪又は過失運転致死傷罪ではないかなあ,と思います。殺人で評価するのは難しいのではないかと。故意次第の部分もあると思いますが。