小豚と美貌鹿

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処分権主義・訴訟物

今回は民事訴訟法の重大原則,処分権主義についてです。処分権主義を理解する上で訴訟物の理解は必須ですので,訴訟物についても確認しておきましょう。

 

訴訟物とは

訴訟物とは原告の訴え,具体的には訴状の請求の趣旨および原因によって特定され,裁判所の審判の対象となる権利関係のことを言います。

訴訟物の特定に関しては新訴訟物理論と旧訴訟物理論の対立があり,新訴訟物理論が有力に主張されていおりますけれども,実務は旧訴訟物理論で動いておりますし,我々が問題を解く上でも旧訴訟物理論で考えるのが素直であろうと考えます。

 

旧訴訟物理論とは訴訟物を実態法上の権利自体が訴訟物である,との立場です。

訴えを提起する上では訴訟物を特定しなくてはなりませんが,その特定は権利の性質によって変わります。

物権的請求権の場合には

①権利の主体

②権利の内容

によって特定され,

債権的請求の場合には

①権利の主体

②権利の内容

③権利の発生原因

によって特定されます。

 

物権の場合は物権の個数と侵害の個数,債権の場合は契約の個数,くらいで考えてみてもいいかと思います。

 

ちなみに新訴訟物理論は個々の実態法上の請求権を包括した上位概念としての言ってイン給付を求め得る法的地位があるとの権利主張のことをいい,紛争の一回的解決に資するとの有用点があります。

 

処分権主義について

処分権主義とは民事訴訟法(以下,法令名省略)246条を根拠条文とする,当事者が訴訟の開始・訴訟物の特定・訴訟の終了・紛争の実態的解決について処分権能を有し,これらについて自由に決定できるとする建前のことを言います。

これらのことについて当事者に決定させることにより,

①紛争処理方式の選択の自由

②訴訟の対象の自主的形成

③手続き保障・不意打ち防止

の機能が働くのです。

 

そして前項の訴訟物の特定は,処分権主義との関係で,審判対象の特定・被告に対する不意打ち防止・訴訟物の同一性 を判断する上で必要となります・

 

(被告に対する不意打ち防止,とは,たとえば50万円の給付訴訟を提起されているとすると,被告は敗訴しても最悪50万円払うことになるだけ、という合理的な推認が働きます。それなのに100万円支払え,との判決をされたら被告からしたらびっくりしてしまいますよね。これを防ごう,という趣旨のことです。)

 

これは訴訟提起段階での訴訟物の現れです。

いかなる訴訟物につき,いかなる種類の権利救済を,いかなる範囲・限度で求めるかを請求の趣旨の記載により明らかにするということです。

 

一部認容判決について

ここで気になるのが一部認容判決です。

一部認容判決は申立て事項と判決事項が一致して無いように見えますが,これは処分権主義に反しないのでしょうか?

この点,処分権主義の趣旨は当事者間の公平と訴訟経済に資する,という点にあると解釈すると,

①原告の合理的意思に合致し

②双方にとって不意打ちにならなければ

趣旨に反せず,許されると考えて良い,とされています。

 

よくあげられる問題として,「現在の給付の訴えに対する将来給付の判決が

認められるか」というものがあります。

 

これを上記観点に照らし考えてみると.

①原告からしたら将来給付であっても,債務名義を取得できる方が現訴訟について敗訴,期限到来後再度別訴提起.といった流れを取るより良いと考えるでしょうし,②被告の負担のMaxよりも将来給付の方が(期限の利益を得られるから)小さい,といえるので不意打ちにはならず,原告にとっても請求を棄却されるよりも有利な判決と言えるので,双方の不意打ちにならない

ということができ,認められるであろうということになりますね。勿論135条の要件を満たすことは前提です。

 

債務不存在確認の訴えについて

次に検討するのは債務不存在確認の訴えについてです。

債務不存在確認の訴えにおける訴訟物は、その訴訟形態の性質は給付訴訟の裏返しであり,上限と自認額の差額の不存在となります。

上限を明示しなくとも請求原因その他の訴状の記載から債権自体の特定が可能であれば裁判所にとって審判対象は不明でなく,債権者である被告は債権額を主張立証すべき実態法上の地位にある(最判昭40.9.17)

 

では債務不存在確認について裁判所が原告主張の額を超える額を残債務として認定した場合はどうなるでしょうか。

これについては原告の申立ての範囲を量的に超えていますから処分権主義に反しそうですし,原告の主張につき「残務額は別訴で争う意思」であるとして請求棄却判決をするべきであるように思えます。

 

ですが,このような訴訟において単に請求棄却判決をするだけでは何ら紛争解決基準を示さないことになり,紛争の解決どころかかえって紛争を誘発することになりますよね。

 

さらに,双方の意思から考えてみても,紛争は早く解決してしまいたいと考えるのが通常でありましょうし,裁判所は上記心象を得るにあたって審理を通じて残務額を確定していると考えられます。そうだとすれば上記処分権主義の趣旨に反せず,一部認容判決をすべきである,との結論になります。

 

おわりに

今回は処分権主義とは?のような点について述べました。

処分権主義の重要論点,一部請求についてはまた改めてまとめますので,まず処分権主義の趣旨・意義はしっかりと確認しておいてください。

 

 

                                     以上