小豚と美貌鹿

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名誉棄損罪について(1)

今回は名誉棄損罪(刑法(以下,法令名省略)230条)について、論点をまとめていきたいと思います。

 

名誉棄損って普段聞くことやなんとなく使っている人も多い印象ですが,意外とニュースになっている事ってありませんよね。

 

法律を学部なり法科大学院なりで学んでいる人にとっても,名誉棄損って刑法の各論の中でもあまり論点が多くないというか,各論の中で最も力を入れたい財産犯などに比べるとどうしても確認が甘くなりがちですよね。ですからここで最低限必要な知識の整理だけしてしまいましょう。

 

 

名誉棄損罪(230条1項)の構成要件について

230条1項

①公然と②事実を適示し③人の名誉を棄損した者④その事実の有無にかかわらず  3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

 

[①公然と 要件について]

「公然と」とは、「適示された事実を不特定または多数人が認識しうる状態」を言います。

不特定「または」多数人というように,不特定人と多数人のどちらかを充足すれば足ります。「不特定」の例は演説や雑誌の記事記載等であり,「多数人」とは「社会一般に知れ渡る程度の人数」を意味します。

 

さて,ここで問題になるのが,当該事案における被疑者が

「特定人数又は少数人にしか(名誉棄損の事実を)直接に伝えていない」

場合です。単純に考えれば上記の定義に当てはまりませんし,「公然と」とはいえないような気がします。

しかし,たとえ少数人にしか事実が伝えられていなかったとしても,それがその話を聞いた人たちからたくさんの人に伝わったような場合であれば,直接多数人に伝えたことと実質的に同じですよね。

そこでこの点について「伝播可能性説」という説があります。「直接には特定且つ少数者に対して適示した場合であっても,不特定または多数人に伝播する可能性があれば公然性がある」とする立場です。

そして,判例もこの伝播可能性説を採用しており,「適示の直接の相手方が特定且つ少数の人であっても,その者らを通じて不特定または多数人へと広がっていくときは公然性が認められる」(最判昭36.10.13) と判事しています。

 

従って,「適示の相手が特定且つ少数である場合には,伝播性が認められるかどうかで判断をしていきましょう。

ちなみに「知りうる状態」におけば足り,実際に認識したことまでは必要ありません。

 

[②事実を適示し 要件について]

「事実を適示し」とは「人の社会的評価を低下させるような事実」のことをいいます。

この事実は事実証明の対象となり得る程度に具体的である必要があります。例えば小説に登場する仮名のモデルであっても,一般人にとって特定の人物であると見当がつく程度まで具体的であれば本要件を満たします。

 

[③毀損した 要件について]

「毀損した」とは「人の社会的評価を害する恐れを生じさせた」ということです。名誉が傷ついたかどうかは本人にしかわからないことであり,他者が判定することはできないからです。

 

[④その事実の有無にかかわらず 要件について]

この要件の意味は「適示された事実が虚偽だろうが本当だろうが名誉棄損を認めるということです。その人が得ている社会的評価が実質よりも高いものであったというような場合に,その評価を実質まで下げる行為についても「人の社会的評価を低下させている」以上,名誉棄損が成立するのです。

 

 

以上,230条1項の構成要件解釈でした。

 

ちなみに230条2項は死者の名誉棄損についての規定です。

死者の名誉棄損については虚偽の事実の適示のみが該当します。

真実まで名誉棄損に当たるとしてしまうと歴史上の真実発見上弊害が生じる恐れがあるからですね。

 

以上が230条の主なまとめになります。

名誉棄損罪については事実証明(230条の2)についても論点があります。そちらの記事についてはこちら↓↓で確認しておいてください。

 

 

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                                     以上