小豚と美貌鹿

生きる上で役立つなあ、と思ったこと、日々の生活の中で頭に入れたいことなどを纏めます。

名誉棄損罪について(2)

今回は前回↓↓の続きです。

porkblog.hatenablog.com

 前回は230条の構成要件解釈を簡単に説明しました。

今回は特則である230条の2について検討していきたいと思います。

 

230条の2

1項 前条第1項の行為が①公共の利害に関する事実に係り、かつ、②その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、③真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

2項 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。

3項 前条第1項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

 

今回検討していきたいのは1項の要件についてです。では,各要件について検討していきましょう。

 

[①公共の利害に関する事実 要件について]

公共の利害に関する事実とは「市民が民主的自治を行う上で知る必要がある事実」ということです。この点につき,公共の利害と一般大衆との好奇心は異なるので,個人のプライバシーに関する私生活所の行状は原則として公共性が否定されます。

 

しかし,当該人物が携わる社会的活動の性質や影響力の程度などによっては,公共性が認められることがあります。

判例でも,「私人の私生活上の行状であっても,そのたずさわる社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによっては,その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として,『公共ノ利害ニ関スル事実』にあたる場合があると解すべきである」と判示し,公共性を認めたものがあります(月刊ペン事件 最判昭56・4・16)

 

[②目的の公益性 要件について]

目的の公益性とは「公共の利益を増進させることが主たる動機となって事実を適示した」ということです。

つまり,読者の好奇心を満足させる目的被害の弁償を受ける目的では本要件を満たさないということです。

 

[③真実であることの証明があった時 要件について]

さあ,本条文最大の論点である真実性の要件についての検討です。

この要件を検討するにあたって,まずは上記①②の要件が充足されてから検討に入らなければなりません。なぜなら,事実の真否を明らかにする過程で再度被害者に苦痛を与えることになるので,そういったことはやむを得ない場合に限定されるべきだからです。つまりプライバシー保護の見地からですね。

この要件は事実が真実であった場合に充足し不可罰となるものですが,では一体どこに問題が生じてくるのでしょうか。それは行為者がその事実を(実際には真実でないのに)真実だと誤信していた場合です。こういった場合まで全て許されないとなると,表現の自由が必要以上に制約されることになりかねません。かといって,全てを誤信であるが故に事実の錯誤として故意を阻却すると,どんなに軽率に信用しても処罰が否定されることになり,名誉の保護を不当に軽視することになってしまいます。

そこで,判例は230条の2を個人の名誉の保護と正当な言論の保障との調和を図ったものであると解し,たとえ真実性の証明がない場合でも「行為者がその事実を真実であると誤信し,その誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らし相当の理由があるときは,犯罪の故意がなく,名誉棄損の罪は成立しない」(最大昭44.6.25)と判示しています。

 

 

ちなみに近時気になる点はインターネットによる名誉棄損の場合ですよね。

このインターネットによる表現についても名誉棄損につき従来と同じ判断基準が妥当するとされています。

 

230条の2「真実性の要件」についての参考論証

以下,上記③について論述する際の参考に簡単に論証を記述しておきます。学部生,ロー生は参考にして改良を加えるなりなんなりしてみてください。

 

真実性の誤信(証明失敗の場合)

1.行為者が事実を真実と誤信し,その誤信したことについて確実な資料に照らし相当な理由がある場合でも230条の2は適用されないか。

(1)この点,真実性が証明されない場合は全部処罰されるという考えがある。しかし,証明がない限り免責の余地が全くないとすると表現の自由の保護を不当に軽視することになり妥当でない。

(2)また,行為者が真実だと誤信したのであるから事実の錯誤として故意が阻却されるという立場に立つと,行為者が確認を怠り,真実と軽信した場合まで保護されてしまい,名誉の保護を不当に軽視することになりかねない。

(3)従って,当該誤信につき,「誤信したことに相当な根拠がある場合」に限って処罰を否定するべきである。

 

とても簡素なものになっておりますので,自分で理解を深めつつ書けるようにしておいてください。

 

                                     以上